「残業代ゼロ法案」を考える 7 〜 まとめ 〜

前回まで6回にわたり「残業代ゼロ法案」(日本版新裁量労働制)について考えてきましたが、最終回の今回は、前回までの内容を踏まえ、期待する今後の方向性について記載したいと思います。

現状の日本の労働問題として、長時間労働ブラック企業が挙げられます。この問題を解決することなく「残業代ゼロ法案」を施行すれば、第5回目に記載した「反対派」の意見のとおり、現状の問題の悪化を招くことと思われます。
ただ、第6回目に記載した「賛成派」の意見のとおり、仕事に対する考え方を変えることや労働生産性の向上」は必要ですし、今後ますます深刻になると思われる人手不足の問題の解決のためにも、「労働者の拡大」は必要となります。5月12日の「Yahoo!ニュース」によりますと、「15歳から34歳までの若い世代の労働力人口は、ここ10年で2割も減っている」とのことです。今後は、中高年も含めて、労働力人口の減少は明らかです。そのためにも「労働者の拡大」は必須となってきます。

では、どうすれば良いのでしょうか。

第1回目の「産業競争力会議の提案内容を読む」にも記載しましたが、今回の産業競争力会議の提案資料の1つに「Ⅰ.『働き過ぎ』防止の総合対策」という項目があります。そこではハローワークの求人には、従業員の定着率や残業時間のデータ開示を要することを検討すべき」・「労働基準監督のための人員を強化すべき」とも提案しています。
こちらの提案が実行されれば、「ブラック企業」の数の減少を目指せますし、また、現在、議員立法過労死防止基本法が国会に提出されていますが、これが成立すれば「過労死」や「過労自殺」の一定の抑止力になることが期待できます。

残業代ゼロ法案」の施行の前に、まずは上記に示した提案の施行など、「長時間労働」の抑制や「ブラック企業」による悪用の防止といった「労働者を守る」ために必要な施策を具体的に考え、実行していくことが必要かと思います。
また、それと併せて、いまだに日本社会にある「長時間働く社員を評価する」という考え方を改めていく必要があります。
この法案を施行するのだとしたら、施行によって起こり得る懸念事項の解決が、施行の前に、国が先ずしなければならないことだと思われます。

この法案の問題は、単に「社員の残業代がゼロになる」というだけではありません。この法案の施行により、少子化や日本国民全体の「働き方」、家族の関係など、様々な問題が影響を受けることとなります。
長時間労働」や「ブラック企業」問題のみならず、これらの色々な視点からの議論がされることを、今後期待していきたいです。

全7回にわたり「残業代ゼロ法案」について記載してきましたが、いかがでしたでしょうか。
このブログを通じ、「残業代ゼロ法案」の内容や目的、この法案についての世間の意見などが少しでもお伝えできていれば幸いですし、この法案の施行に伴う問題点や法案のあり方についてなど、今後共に考えいければと思います。

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