「残業代ゼロ法案」を考える 3 〜 欧米の「ホワイトカラーエグゼンプション」 〜

前回は、日本における「ホワイトカラーエグゼンプション」について書きましたが、今回は欧米の同制度についてご紹介していきます。

アメリカ】
アメリカでは、一般的にエグゼンプト労働者ノン・エグゼンプト労働者に分けられています。ノン・エグゼンプト労働者は1週間に40時間を超える労働をした場合には、残業手当として時間あたり50%増しの対価が得られる労働者です。ノン・エグゼンプト労働者は残業や休日出勤することは稀で、9-5(ナイン・トゥー・ファイブ)の労働で、週末は休日をとるのが普通です。
一方、エグゼンプト労働者は、ホワイトカラーエグゼンプションの対象となっている労働者で、おおむね年収が高く、学歴もMBA(経済学修士)や各専門分野の修士課程以上を取っているのが普通です。残業や休日出勤、自宅や外出先でも仕事をし、日本のホワイトカラーの2倍〜3倍は働くと言われています。
アメリカのホワイトカラーエグゼンプションには次の3類型あり、いずれも ①腕力・身体的技能及び能力を用いて、主として反復的労働に従事する肉体的労働者その他のブルーカラー労働者ではないこと ②原則、週給455ドル以上(年収約300万円弱)の固定額の支払いがなされること を満たすことが必要となっています。
◆管理職エグゼンプト◆
2人以上の部下に関する、人事権・採用権・解雇権があり、労働に関する指揮管理を任されていて、仕事の評価も行ない、賃金に関する権限を持っている労働者。
◆運営職エグゼンプト◆
顧客の税務、金融、経理、予算編成、会計監査、保険、品質管理、仕入れ、調達、宣伝、販売、調査、安全衛生、人事管理、人的資源、福利厚生、労使関係、公共関連、政府関連、コンピューターネットワーク、インターネット及びデータベース運営、法務及び服務規律などの管理をする業務で、非肉体労働であること、これらの業務に関して自由裁量があること、独立した判断が任されている労働者
◆専門職エグゼンプト◆
明らかな専門的教育に裏付けられた専門性があり、科学や学識分野、教師、法律、医療、コンピューター関連に従事する、または、独創的な芸術、創作分野での技能がある労働者

アメリカでは学業と職業が密接につながっていて、例えば管理職のホワイトカラーエグゼンプションの適用になる為には少なくともMBAは必須項目とされています。このようにホワイトカラーエグゼンプションになるためには、明確な要件付けがなされているからか、特に問題点は多くないようです。

ヨーロッパにもホワイトカラーエグゼンプションと同じような制度がありますが、EUの規定によって、1労働日のうち11時間は連続して休養をとることになっており、実際の労働時間は長くても13時間未満になります。
EUの規定の他に、各国ごとにホワイトカラーエグゼンプションに関しての規定があります。

【イギリス】
イギリスのホワイトカラーエグゼンプションには、次の3類型があります。
◆幹部管理職若しくは自主決定権限を有するその他の者等◆
労働時間の長さが測定されていない(測定対象外労働時間)、又はあらかじめ決定されていないか若しくは当該労働者自身によって決定することができる特別な性質の活動に従事する労働者
◆通常の労働時間と測定対象外労働時間がある労働者(労働時間規則第20条第2項に係わる労働者)◆
通常の労働時間のほかに、あらかじめ決定されている、又は労働者自身によって決定できない労働時間がある者で、特別な活動をしている労働者
◆その他◆
ホワイトカラーに限定されない労働者で、個別的にオプ・アウト(エグゼンプト)を使用者との間に書面で交わし、法定労働時間の規制を受けない労働者欧州委員会から「自由意志での同意を担保していない」と批判されています。

【ドイツ】
ドイツのホワイトカラーエグゼンプションには、次の2類型があります。
◆管理的職員◆
事務所組織法第5条第3項に規定する管理的職員で、部下の採用及び解雇に関する権限があり、かつ包括的代理権か業務代理権のある労働者。または、上記以外で企業の存続と発展にとって重要な職責にあるか、特別な経験と知識が必要とされる仕事に従事する労働者で、自己裁量によって職務を遂行する権限がある者とされています。また、年収を基準に考えると社会保障の算定基準となる平均報酬の3倍(約800万円)を超える額を対象としています。
◆協約外職員◆
管理的職員よりも下位の職位に位置しながら、労働協約の適用を受けない労働者が、管理的職員と労働協約の適用を受ける一般労働者との中間に存在する労働者。一般的に高度な資格を有し、協約の最高賃金を超える年俸を得ていて、自己の裁量によって労働時間や業務の管理を行ないます

【フランス】
フランスのホワイトカラーエグゼンプションは、基本的に1つです。
◆経営幹部職員◆
労働時間に関する独立性と自立性の高い決定権限、雇用先での最も高い水準の報酬、いずれの条件も満たした労働者。

欧米各国のホワイトカラーエグゼンプションを見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
いずれの国においても、基本的には高度な専門性と高い年収が見込まれる労働者が対象になっているように見受けられます。

上記の国々は、それぞれホワイトカラーエグゼンプションを導入していますが、労働の文化や考え方が違います。
例えばアメリカでしたら、エグゼンプト労働者は土日も休まず働くケースは少なくないですが、それは成果主義が徹底されていて働くだけ収入が増える見込みがあるからです。一方、欧州諸国は失業を減らすためにワークシェアリングを重視し、労働時間に厳しい規制をかけて残業を「悪」とみなしています。ドイツには残業の割増賃金制度がなく、管理職は労働時間の規制が適用されないというだけになっているそうです。

日本にも日本独自の労働における文化や考え方があります。それをベースに、どのように「日本版ホワイトカラーエグゼンプション」、今回の「残業代ゼロ法案」をすすめていくことになるのでしょうか。

次回は、日本の労働の文化である労働基準法や「働き方」の考え方について、どのような背景のもと、なぜいま労働法がこのような形になっているのかを記載していきます。