「残業代ゼロ法案」を考える 2 〜 第1次安倍政権のホワイトカラーエグゼンプションとは? 〜

今回安倍政権が打ちだしている「残業代ゼロ法案」と呼ばれる政策は、「成果ベースで、一律の労働時間管理に囚われない柔軟な働き方」を提案しているものですが、この政策は数年前に「ホワイトカラーエグゼンプション(ホワイトカラー管理職・専門職の例外規定)」として持ち出された議論と似たような制度となっています。

ホワイトカラーエグゼンプションは、いわゆるホワイトカラー労働者(主に事務に従事する人々を指す職種・労働層)に対する労働法上の規制を緩和・適用免除すること、またはその制度をいいます。
各国の労働法制において、労働時間の規制がなされていることを前提としてその規制の適用を免除し、または例外を認めることで、労働時間の規制を緩和することをいいます。

日本においては、2005年6月に経団連が提言を行い、以降厚生労働省労働政策審議会において「労働法制のあり方」の課題のひとつとして導入が検討されました。
当時の提案内容は、対象者を次のとおりとしていました。

1.現行の専門業務型裁量労働制の対象業務従事者
2.労使委員会の決議により定めた業務で、月給制か年俸制、年収が400万円か全労働者の平均給与所得以上の者
3.労使協定により定めた業務の従事者で、月給制か年俸制、年収が700万円か全労働者の給与所得上位20%以上の者

2006年、第1次安倍内閣において労働ビッグバンを提唱し、その一環として議論されました。当時は適応対象者の範囲が具体的に示されず、基準年収額も「相当程度高い」とするのみで明確ではなかったのですが、2007年に対象者を次のとおりとしました。

1.労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者(「企画、立案、研究、調査、分析」の5業務に限定)
2.業務上の重要な権限および責任を相当程度伴う地位にある者
3.業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、使用者が具体的な指示をしない者
4.年収が相当程度高い者(年収900万円以上)

しかし、多方面からの反対を受け、与党は国会での法案可決を断念し、また、審議会に提出された「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」の中に自己管理型労働制」という名称で盛り込まれましたが、国会には提出されておらず、制度として導入もされていませんでした。

ホワイトカラーエグゼンプションの前提は、「労働力を投下すればするほど価値(利益)が増大するという成長期の第二次産業(工業・製造業)の前提」が通用しない産業分野や職務内容、職位・役割が増えたということであり、そういった分野や役割においては「一定以上の固定給」を保障した上で「時間にとらわれない仕事」をした方がコスト削減や生産性向上につながる、としています。

今回の「残業代ゼロ法案」は、このような前提に基づき、第1次安倍政権の「ホワイトカラーエグゼンプション」よりも対象を広げています。ホワイトカラー管理職や専門職(技術職)に限定せずに、加入率の高い労組のある会社との間で同意の取れた一般社員にまで拡大するというものになっているので、企業には使いやすい内容ではないかと思われます。

ところで、この「ホワイトカラーエグゼンプション」という制度は、もともとはアメリカで導入されている制度です。アメリカにおいて、この制度はどのように運用されているのでしょうか。また、問題点などあるのでしょうか。

次回は、アメリカをはじめ他の国での労働者の働き方と「ホワイトカラーエグゼンプション」について見ていきたいと思います。