「守ってくれて、ありがとう。」 〜 シリーズ 今日も労基法 3 〜

「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」

上に記した条文は、労働基準法第6条です。労基法の中で、「何人」という言葉が使われているのは第6条のみとなります。全ての人(個人、団体、私人、公人全て)に対する禁止を示した勇ましい条文ですね。

さて、この精悍な条文ですが、何をそんなに強く禁止しているのでしょうか。

この条文は「中間搾取の排除」や「中間搾取の禁止」とも呼ばれるもので、法が許す場合以外には、誰であれ第三者が、職業・生業として、他の使用者と労働者との間に成立する労働関係における就業に介在し、使用者、労働者またはその他の者から手数料、報酬、謝礼などの利益を得ることを禁止しています。

本条が導入された背景を簡単にご紹介します。
日本では、明治初期においては、労働関係の成立は、口入屋、桂庵、募集人、労務供給業者等を通じて行われ、不当な賃金搾取やその他の非人道的な悪習が伴い、女工哀史等のよって生ずる一因をなしていました。
大正に入り、職業紹介法や労働者募集取締令の制定をみ、はじめて国の法令によってこの問題がとりあげられ、昭和13年に職業紹介法の制定に伴う関係規則の整備により、職業斡旋は、国の機関としての職業紹介所を通じて行う建前が確立され、昭和22年に職業安定法が制定されました。
しかしながら、労働ブローカー、労働ボスが労働者の就職に介入することによる利益の授受あるいは親分子分間の賃金のピンハネ等は、職業安定法の直接の取締対象ではなく、また、戦後もそのような悪習が労働慣行になお残存していたので、職業安定法と並んでこのような中間搾取を正面から禁止するために、本条が導入されました。

この条文の文言の強さは、労働者が第三者の利益の対象にならないように、利益の対象になることによって非人道的な扱いを受けることがないようにという、労働者を守る強い意志の表れなのでしょうね。

条文上に「法律に基づいて許される場合」とありますが、これは職業安定法により許可を受けてする有料職業紹介事業(第30条)と委託募集事業(第36条)「船員職業安定法による許可を受けてする、船員募集事業(第45条)のみとなっています。
それでは労働者派遣については、どうなのでしょうか。
労働者派遣については、派遣元と労働者との間の労働契約関係及び派遣先と労働者との間の指揮命令関係を合わせたものが全体として当該労働者の労働関係となるものであり、派遣元による労働者派遣は、労働関係の外にある第三者が他人の労働関係に介入するものではなく、労基法第6条の中間搾取には該当しない、とされています。この労働者派遣については「労働者派遣法」という法律があり、色々と厳しく決められていますので、また後日こちらでご紹介させていただきます。

見てきたとおり、労基法第6条は労働者の「人権」を守ってくれているのかもしれません。
「私を守るために、全ての人に対してこれだけハッキリと宣言してくれるなんて!」と、この男らしさに惚れてしまいそうです。

さてさて、次はどの条文と会話してみましょうか。・・・悩むところです。次回までにはターゲットを決めますので、いましばらくお待ちください。

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