「誓約書」という鎖。

関西地域の介護会社「寿寿」(大阪府東大阪市)が、フィリピン女性を介護職員として採用する際に、「私が死んでも会社の責任は問いません。権利は永久に放棄します。」という誓約書を提出させていたことが、2014年7月12日の共同通信の取材でわかりました。

共同通信によりますと、女性たちはフィリピンでの集団面接を経て採用されていました。誓約書の内容は、「自然な状況」で本人が死亡した場合、同社を刑事でも民事でも責任追及しないというものだったといいます。
なお、フィリピン人の女性職員からは「労働条件が厳しい」との苦情が出ており、宿直勤務を月間13回させた書類も残っているそうです。職員が死亡した場合に会社を免責する誓約書に署名させていた理由や、休日取得などの実態について、厚生労働省は調査に乗り出したとのことです。

会社が雇用契約を結ぶ際、こうした「誓約書」に署名を求めることは許されるのでしょうか。また、署名をしてしまったら、誓約書の内容に拘束されてしまうのでしょうか。
共同通信の取材によりますと、今回の介護会社での労働環境は、宿直勤務を月間13回もさせるほど過酷なものでした。もしこの誓約書に署名をした女性が、過労のため脳梗塞で障害を負ったり死亡したりした場合、女性やその遺族は会社に対して何もできないのでしょうか。

原則として、「誓約書」の内容は自由です。しかしながら、公の秩序や善良な風俗に反する内容、つまり社会的妥当性を欠く内容の契約は、無効とされています(民法90条)。
本件の誓約書は、使用者がその強い立場を利用して、労働者の正当な権利を放棄させることを内容とするものであり、社会的妥当性を欠くものであるため、公序良俗に反するとして無効となる可能性が極めて高いです。
そのため、もしこの女性職員が障害を負う、または死亡するなどした場合 女性やその遺族は会社に損害賠償請求をすることが可能です。

使用者と労働者との力関係は、通常の場合でも、使用者が強い立場にあり、労働者は使用者の言うことに従わざるを得ない立場に置かれています。そのため、裁判所も、使用者が押しつけた今回のような誓約書の拘束力を認めることについて、慎重な判断をすると考えられています。

今回のケースに限らず、誰しも会社から誓約書を求められることがあると思います。
もし会社と結んだ誓約書のせいで、会社から不当な扱いを受けている場合や、会社から損害賠償請求を受けている場合がありましたら、泣き寝入りをせずに、一度専門家に相談してみてください。力になれるかもしれません。

当事務所には、残業代請求や未払い賃金その他の会社とのトラブルについて、精通している弁護士がおります。
是非、経験豊富な日比谷ステーション法律事務所へご相談ください。